睡眠

生活が不規則で睡眠に悩みがある

そうお考えの方にこの記事では、

  • 睡眠の役割とは何か?
  • なぜ睡眠が不足すると良くないのか?
  • 睡眠不足を改善するポイントは?

など、詳しくご紹介させていただきます。

近年、「睡眠負債」など、睡眠に関するキーワードに注目が集まっています。※「睡眠負債」は2017年ユーキャン新語・流行語大賞トップ10にも選出されました

なお、睡眠負債とは、睡眠不足の状態がまるで借金のように積み重なり、心身に悪影響を及ぼす状態のことを言います。

社会の24時間化・過度なストレスなど、現代人は睡眠に対して悩みを多く抱えがちです。

そして、睡眠問題を解決するために、高級なマットレスやベッドに買い替える人も多いですが、そうしたハード面だけではなく、自身の睡眠環境自体(ソフト面)をまずは見直してみることも大切です。

この記事を書いた人

管理人の椚大輔椚 大輔(くぬぎ だいすけ)
ベッドメーカーに勤務後、当サイトを開設。国内・海外メーカーへの取材を重ね、レビューしたベッド&マットレスは100商品を超える。2020年に株式会社悠デザインを設立し、ベッド関連に特化したサービスを展開。ベッド・マットレスの専門家としてTBS「ラヴィット!」、ビジネス誌「プレジデント」、楽天市場「マットレスの選び方」などの出演・監修も行う。

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なぜ、人は眠るのか?

そもそも人が眠る理由はなぜかというと、「行動睡眠」と「生理的(脳波)睡眠」という2つの側面から説明できます。

行動睡眠とは

行動睡眠

行動睡眠とは、いわゆる「寝床で夜中眠る」という行動様式や習慣的な睡眠のことを言います。

行動睡眠の目的は、睡眠中(無活動期)に体温と代謝を低下させ、エネルギー消費を節約し食物を十分に摂取できない状況を回避することです。ヒト以外にも爬虫類、両生類、魚類、昆虫も行動睡眠をします。

生物学的にみると、個体を存続させるために進化した適応行動として位置づけられ、生まれ持った本能的な行動として受け継がれていると考えられます。

また、ヒトの場合は、日中に活動して夜間に主睡眠を取る「昼行性」の生活を送るということが、進化の過程で獲得した本能的な行動です。そして、以下で紹介する「生理的(脳波)睡眠」は昼行性の行動睡眠を土台としています。

生理的(脳波)睡眠とは

生理的(脳波)睡眠

生理的(脳波)睡眠とは、脳波・眼球運動・筋電図の電気生理学的指標によって定義されたものです。主にノンレム睡眠・レム睡眠に区別されます。

ノンレム睡眠は徐波(じょは)睡眠と言われ、ゆっくりとした眼球運動と骨格筋活動の低下などが特徴で、「大脳機能を保全する」という役割があります。

レム睡眠は急速眼球運動(Rapid Eye Movement Sleep=REM睡眠)と、完全な骨格筋活動の消失が特徴で、脳温が上昇し、脳を活性化させ「情報を再編成する」などの役目があります。

なお、生理的(脳波)睡眠がみられるのは、鳥類と哺乳類に限られ、動物の大脳の発達に伴って獲得した睡眠と考えられています。

睡眠の役割とは?

脳

睡眠の主な役割は「脳の修復と活性化」です。

身体的な休息(疲労回復)という面も少なからずありますが、体の疲労は覚醒時でも横になればある程度回復します。

ですが、脳は起きているだけで大量なエネルギーを消費するため、睡眠という休息が必要なのです。ちなみに睡眠中の脳は休んでいる(ノンレム睡眠)だけでなく、活性化もされ、情報の再編成(レム睡眠)などが行われています。つまり「脳を守り、よりよく活動させること」が睡眠の目的です。

睡眠が損なわれるとどうなるか?【体への影響4つ】

睡眠不足はなぜダメ(体へ悪影響)なのか?その理由を4つご紹介します。

1. 免疫機能への影響

風邪

免疫の機能が弱まり、生体の防御・維持機能が低下し、健康全般に悪影響が出ます。たとえば風邪をひきやすくったり、ダニの死骸や花粉などに対する抗体反応が正常でなくなり、アトピー性皮膚炎花粉症の発症リスクも増えます。

2. 身体回復機能への影響

肌荒れ

成長ホルモンの分泌が阻害され、身体的な疲労が回復しづらくなります。また、肌荒れなどのトラブルも生じやすくなります。

3. 生活習慣病のリスク

肥満

不眠などによって交感神経系の働きが強くなり、高血圧症虚血性心疾患脳血管性認知症などの要因になります。

また、食欲に関するホルモン(グレリン・レプチン)のバランスが崩れ、肥満につながることも明らかになっています。さらに、睡眠欲求が強い場合には糖質代謝がエネルギー蓄積方向に切り替わり、脂質として体内に蓄えられるので太りやすくなる点にも注意が必要です。

こうした悪影響が蓄積されると、肥満による生活習慣病(糖尿病や高脂血症など)のリスクが増大します。

4. 大脳機能への影響

大脳機能の低下

睡眠不足は、大脳(前頭連合野と頭頂連合野)の機能が低下すると言われています。つまり、感覚の処理運動など、人間らしくあるための機能が低下し、生活全般に悪影響が及ぶ危険があるということです。

たとえば、論理的思考や創造的思考が低下することで、仕事への影響が出たり、情緒不安定になり、キレやすく・涙もろくなったりします。

また、覚醒中の強い眠気によって、事故リスクが高まります。たとえば、睡眠問題を原因とする事故にはチェルノブイリ原発や、スペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発などもあるとされています。

睡眠不足になる原因は?

24時間社会

現代社会は24時間営業のコンビニやファミリーレストラン、明け方まで営業している飲食店なども多く、そうしようと思えば昼夜関係なく活動ができる状態になっています。

また、インターネットなどの通信手段が発達するにつれ、世界中の人々とコミュニケーションが容易になり、結果的に電話やメールでいつでもやりとりできてしまう状態です。

人間は本来「昼行性」なのに、こうした利便性や利潤性を追求した24時間動き続ける社会構造のため、現代人はペースを乱しやすく、睡眠不足・睡眠負債など、睡眠に関して多くの悩みを抱えるようになりました。

夜型人間という言葉もありますが、人間は昼行性の生き物です。一部のホルモンや体温(深部体温)などは実際の行動とは関係なく規則正しいリズムを刻んでいて、簡単に言えば「夜眠たくなる」のが本来の姿です。よって「夜型人間」というのは睡眠の観点から考えるとありえないことなのです。

自然の昼夜(本能的なリズム)と生活の昼夜(実際の睡眠-覚醒サイクル)が一致しなくなることは、人間の睡眠に好ましくない影響をもたらすのは当然と言えるでしょう。

子どもへの影響も深刻

「日本人の約5人に1人は睡眠に問題を抱えている」というのが複数の研究によって示されています。特に就寝時刻の後退(夜型化)に伴う睡眠時間の減少が1970年代から2000年頃にかけて進行しています。

例えば、23時での就寝率は、1970年で75.9%でしたが、2000年では50.7%とおよそ25%も減少しています。こうした夜型化に伴う睡眠時間の短縮傾向はどの年代でも認められますが、特に10歳代後半において顕著です。

子どもの睡眠に悪影響を与えるのは、大人と同様、上でご紹介した社会の24時間化(夜遅くなってもテレビが見れる・ゲームができる、コンビニエンスストアに行けるなど)に加え、子どもの個室化が進むと、好きな時に好きなだけ遊んでしまう傾向が強まると思われます。特にスマホやパソコンを与えた場合などはよりその危険が高まるでしょう。

また、親の活動リズムが夜型化していることや、「夜更かしは良くないこと」というしつけが不足してる点も原因と思われます。

さらに日中の活動の変化(スマホやゲームが普及し、屋外での遊びが少なくなることで身体的な運動量が減るなど)によって夜間の就寝へのスムーズな移行が妨げられている可能性もあります。

なお、3歳における22時以降の就寝率は1970年で22%でしたが、2000年になると52%と過半数を超えるまでになりました。

乳幼児の睡眠不足は知的発達の遅れ、小学生以降では学業成績の低下、さらに情緒不安定攻撃性の増大などの行動面でも悪影響をもたらしています。

また先に挙げたとおり、睡眠不足は肥満を引き起こすことにつながるので、将来的な生活習慣病のリスクを増大させる可能性も懸念されます。

睡眠不足にならないためにはどうしたらいいの?

規則正しい生活を送ること

当たり前の話になりますが、「規則正しく生活を送る」ことが睡眠不足にならないために最も大切です。

昔から「早寝早起き」という言葉があるように、人間の自然な体内のリズムは、朝になると目覚め、夜になると眠くなるというのが本来です。

さらに、睡眠に関するホルモン(メラトニンやコルチゾール)は、「概日リズム」といって約24時間の周期で規則的に変動する生理現象に則って分泌されます。※睡眠を安定させる作用があるメラトニンの場合は、午後9時頃から午前2~3時ごろをピークとして朝方まで分泌されます

つまり、人間は昼間に活動・夜に睡眠が自然なので、昼には昼に、夜には夜に適した状態になるように概日リズムによってホルモンや体温などが協調されているのです。

こうしたことから、昼間に活発な行動をし、夜は自然な眠気に合わせて夜更かしせずに入眠することが大切と言えます。

なお、「早寝早起きをしなければ」と意気込んで、眠くもないのに無理して眠ろうとすることは心理的な緊張を高め、興奮させる原因になるのでかえって逆効果です。あくまで夜に自然と眠くなるよう、昼型の活発な行動や、食事の時間を規則正しくすることを心がけましょう。

睡眠負債を改善する4つのポイント

1. 概日リズムを意識する

すぐ上でご紹介したとおり、一部のホルモンや体温などは約24時間の周期で変動するようになっています。

こうした本来的に備わっている「概日リズム」と、実際の生活における「睡眠-覚醒サイクル」とを同調させることで、睡眠の質は高まります。

また、規則正しい食生活や、軽い運動を実施するなどにより、さらに概日リズムとの同調を強化でき、睡眠時間が安定します。

下記の表は概日リズムを調整するための生活行動の例です。

時刻活動時刻活動
6起床18終業(残業しない)
7朝食
(たんぱく質を意識的に摂る)
19帰宅
・規則正しい夕食
・軽めの運動
8明るい光の下の活動、仕事・社会生活20リラックスして過ごす
・暗めの照明
・熱すぎない湯での入浴
・PCやスマホを見すぎない
921
1022
1123就床
・寝酒はNG
12規則正しい昼食(仮眠:15分程度)0就寝
・部屋は暗くする
・適切な寝具
・適切な空調
13仕事・社会生活1
142
153
164
175

2. 昼間の行動を活発にする

睡眠と覚醒は、お互い関係しあっていて、日中の覚醒状態が良好であれば夜の睡眠の質も良くなるという好循環が生まれます。(逆の場合は悪循環に陥ります)

昼間の生活行動がより活動的になることで、日中の眠気に襲われることなく、夜間の主睡眠をしっかり取れるようになるでしょう。

なお、もし夜間の主睡眠が不足し、日中に眠気を感じる場合は、15~30分程度の昼寝をしましょう。昼寝前にコーヒーなどカフェインを含む飲み物を摂取することもおすすめです。カフェインは摂取後30分ほどで覚醒作用が現れるので、すっきりと目覚められる効果が期待できます。

3. 睡眠環境を整える

「睡眠環境を整える」とは、寝室における

  • 温度湿度
  • 光(照明)
  • 音(騒音)

などを、寝るために適した状態に調整することです。

温度湿度について

温度は、

  • 夏:24~26℃
  • 冬:16~21℃

湿度は、

  • 50~60%

が良好な睡眠環境と考えられています。季節によって推奨室温が違うのは、体の適応能力や、寝具や寝巻を季節に応じて使い分ける体温調節を前提としています。

なお、エアコンなどを使って年間通して同じ室温にできなくもないですが、人間が本来もっている適応能力を鈍化させる危険性もあります。

光環境について

光は、明るければ明るいほど覚醒方向に作用します。つまり、就寝時には極力暗く(電気をすべて消すなど)することが睡眠環境としては適しています。

逆に、光の覚醒効果を用いて、朝の目覚めをスムーズにさせたり、日中にたっぷりと光を浴びることで覚醒が維持されるので、夜間に自然と眠くなりやすいでしょう。こうして光を上手にコントロールすることで、睡眠-覚醒サイクルが整いやすくなります。

また、光(照明)のによっても覚醒作用が異なります。寒色に(色温度が高く)なればなるほど、覚醒作用が増えます。そして寒色の光は、低照度(暗め)だと寒々した陰気な雰囲気となるので、ある程度の高照度(明るさ)が必要です。

逆に、暖色の光は低照度(暗め)でも落ち着いた暖かみのある雰囲気になるので、覚醒を弱めるのに適しています。

日中向けの照明と夜向けの照明

つまり、日中は覚醒維持を助けるために白~寒色系の明るい光、夜には覚醒を抑え睡眠へスムーズに移行するために暖色の暗めの光に調光するなど工夫してみることがおすすめです。

音環境について

交通量が多い道路に面している家などは厚手のカーテン二重窓ガラスなどを使って騒音対策が基本です。

しかし、いくら騒音をカットしても自分が気になる生活音(たとえば時計の針の音や、家電の動作音など)があると、入眠が妨げられてしまいます。

そうした場合は、自分の好きな音楽や、波や川の流れの音などのヒーリング系のBGMなどを使って、気になる騒音をマスクする方法がおすすめです。

なお音楽やBGMを利用する場合は、タイマー機能やフェードアウト機能によって入眠後にオフに出来る仕組みがあることが好ましいです。

4. 就寝前のリラックス

心身が興奮していると自然な睡眠に入ることが困難です。つまり、スムーズに睡眠へ移行するには、リラックスした心身の状態になる必要があります。

よって、夕方以降の生活行動においても興奮・緊張をしないように注意することが大切です。具体的には就寝間際におけるカフェインや多量のアルコール摂取、喫煙、激しい運動、心身を興奮させるような行動は避けましょう。

また入浴に関しても注意が必要です。熱すぎる風呂(42℃以上)への入浴は深部体温(脳や臓器などの体の内部の体温)を必要以上に上げすぎたり、交感神経系が刺激され興奮状態になります。

湯の温度は38~40℃くらいの熱すぎないくらいがおすすめです。深部体温をゆっくりと上昇させることで、その後の睡眠に有効に働くとされています。(例えば、スムーズに入眠できたり、ノンレム睡眠の効果が増大するなど)

入浴におすすめの時間は、深部体温が概日リズムで最高温度になる18~21時頃です。深部体温のピーク値を高めることで、入眠時の体温低下の速度が上がり、睡眠初期にまとまった徐波睡眠(大脳を休める作用)が出現すると考えられています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

睡眠の役割や、睡眠不足の影響・改善する方法などをご紹介させていただきました。

睡眠科学には「概日リズム」や「ホルモン」、「レム・ノンレム睡眠」など、少し難しい言葉が出てきますが、睡眠の質を改善するには要するに規則正しい生活が一番です。

人間は昼に行動し、夜に休息するというのが長い進化で獲得してきた本能的・本来的な姿です。それが近年では社会の24時間化が急速に進んだことで、人間の本能が実際の生活に追い付いていない状態に陥ってしまっていると言えます。

なかなかコントロールしづらい社会構造ではありますが、無理の出ない範囲で、意識的に規則正しく生活を送り、睡眠負債を返し、睡眠不足がない状態を作ることで個人の健康的な生活、結果的に社会全体の生産性向上につながるでしょう。

最後までお読みいただき誠にありがとうございした。

参考文献

睡眠環境と寝具『睡眠編』(一般社団法人日本ふとん協会)